準ちゃん。


市川さんと呼ぶ時。準ちゃんと呼ぶ時。

詳しく正確に言うと、

お仕事で人前の時は、市川さん。

またまた〜、なんてこと言うの、なんてことするの、本当にしょうがないんだから、

でもいいや、好きだから〜許しちゃう〜の時は、準ちゃん。


尊敬する市川さんと愛すべき準ちゃんです。



エピソード、序章



初めて会った時は、勿論、市川さんです。

市川さん33歳、僕32歳。

CMの仕事で、お互いの企画を持ちよった時が初めての出会いです。

同じ課題なのに、どうしてこんなにアイディア、答が違うのと、

2人でコンテを見せ合い、笑いあったことを忘れません。

それは、お互いの個性、キャラクターを認め合った瞬間でもあります。

至福の時です。

2人は、30歳を超えたといえ、まだまだ若い、演出とプランナーでした。

その翌年、そんな2人がかかわったCM、エスキモーピチカート、味の素の中華味が

2本ともACC賞をいただきました。


市川さん、準ちゃんとのハッピーエピソードの始まりです。




エピソード1、準ちゃん初めての海外ロケ、サイパンに行く。



僕たち先発隊より遅れて、サイパン入りした準ちゃん。

サイパン空港にお出迎え、そして飛行機が到着。

せっかくタラップから降りたったのに、再び機内に戻る準ちゃん。

なんだ、なんだと思っていたら、準ちゃんは先に入ったスタッフのために

日本の新聞をわざわざ飛行機に取りに戻ったのです。

優しい準ちゃん。

そんな準ちゃんとホテルは、同部屋。

「ドアー開けておいてね。」といって、

僕を置いて、深夜ガラパンの街に一人消えて行く準ちゃん。

優しさ以上に、好奇心の強い、準ちゃん。



エピソード2、準ちゃん初めてNYに行く。



この仕事も、僕が先にNYに。

後から来る準ちゃんは、「ハーレムロケハンをしておいて」と。

当時のハーレムは、とっても怖いところ。

でも、準ちゃんに言われたら、ロケハンに行かざるをえない。

夕暮れ時、ハーレムへ。

コーディネーターは、怖がって車から降りない。

仕方なく僕が降りたら、案の定、黒人達から罵声!

怖かったー!

この事を報告したら、

準ちゃんは笑顔を浮かべ「やっぱり。」と、ひと言。

人使いの荒い、準ちゃん。



エピソード3、準ちゃん初めてLAに行く。



ロケバスで夕食に行った帰り、ハリウッドのはずれの辺り。

突然「バス止めて!」と、準ちゃん。

いくら、ちょっと歩けばホテルだと言っても、人通りの少ない所、夜の一人歩きは危ない。

僕とスタッフが、いくら止めても、一人闇に消える準ちゃん。

命知らずの準ちゃん。



エピソード4、準ちゃんのロードムービー



準ちゃんは、僕の結婚式に流すムービーを撮ってくれました。

それも16ミリフイルムで。

タイトルは「A DAY IN THE LIFE」

準ちゃんは、僕のかみさんのことを無防備の瞳と言って気に入っていました。

撮影は1日で、深夜に及びました。ロードムービーの傑作です。

結婚式で流した時、アンコールの声が起こりました。

準ちゃんは、涙を拭きながら会場を後にしました。


本当にありがとう、準ちゃん。



エピソード5、準ちゃん何度も何度も愛媛ロケに行く。



ポンジュースのCMのロケ地は、愛媛、八幡浜市

(準ちゃんは、愛媛に住みたいと言っていたぐらい、愛媛を愛していました。)

そこに、ロケに行くたび訪れるスナックがあります。

その名も「アニマル。」凄い名です。

最初は、怖いもの見たさに恐る恐る入りました。

ですが、野獣のようなホステスがいるわけでもなく、

年増のママさんが一人でやっているお店でした。

場末の雰囲気か、名前なのか、なぜか僕たちは、気に入っていました。

そして、最後は準ちゃんお得意のカラオケ、赤いスイトピーの熱唱。

好きでした酔いどれ、準ちゃん。



エピソード6、準ちゃんの初めての映画。



CMで、たびたび素人を起用する準ちゃん。

僕に、映画「BUSU」出演の声がかかりました。

役どころは、ビヤガーデンの階段で酔っ払った俳優高島さんに

反吐を吐きつけられるカップル。

(カップルの相手役は、スタイリストの下田真知子さん。)

セリフは、「きったねーなー!」アドリブで、一言。

反吐を吐きつけられる役だからTAKE ONE OKでないと思っていたら、

一発OKで無事終了。

ですが、その後準ちゃんから電話があり、「編集上、カットしました」と。

幻のシーンとなりました。


そこで、準ちゃんは僕に、再び学校の先生役を用意してくれました。

シーンは、職員室、学園祭の出し物で生徒に相談を受ける役。

カメラ位置から見たら、センターロングボケ。セリフは適当にの指示。(笑)

そんなチョイ役でしたが、

エンドロールには、松枝良明、松枝多佳子のタイトル。

スクリーンで初めて見る自分の名前。感激しましました。

どこまでも優しく、気遣う準ちゃん。



エピソード7、準ちゃん映画その後。


それ以来、たびたび映画出演の声がかかりました。

たいていエキストラ役なのですが、必ずカメラポジションで僕だとわかる所においてくれました。

ノーライフキング」の時なんか、僕の移動とカメラの移動がシンクロしてたりして。

「クレープ」では、わざわざ隣の客役の尾形君がカウンターに、つぷして僕の顔が映るようにしてくれたりして。

そんな中「つぐみ」では、セリフを初めていただきました。

「白鳥さん、電話です。」

エンディングに導く、重要なせりふです。

テイクを重ねること10数回。ようやく、OKが出ました。



締めるところは締める、厳しい映画監督、準ちゃん。




エピソード8、準ちゃんのオフライン編集。



まだ、僕の子供2人が小学校低学年の頃。

たまたま休日で、仕事ですが、子ども連れで編集室に行かなくてはなりませんでした。

編集は確か5タイプぐらい上がっていました。

どれも、良い出来で、お薦めタイプに迷いました。

そんな時、準ちゃんは、子どもに見せて、

素直に笑って反応したタイプを、ニッコリと選びました。

クライアント試写の時も、それが選ばれました。


子どもの素直な反応に、素直に応える、準ちゃん。




エピソード9、準ちゃん映画、再びその後。



「つぐみ」以来、暫らく映画出演のお声が、かからなくなりました。

素人出演者に懲りたのか?準ちゃん。(苦笑い)

ですが、久しぶりに、お呼びがかかりました。

映画「トニー滝谷」です。

仕事を終えて新幹線で、喜び勇んで新横浜へ。

そこには、斬新なオープンセットが。雨降ったら、どうするのだ!準ちゃん。

セリフは、再びありません。いつものようにアドリブです。


深夜におよぶ撮影も無事終了。


映画を見てびっくりしました。

いつものように、センターボケかと思いきや

僕の顔がUPで使われている。

カメラは広川さん

あっぱれ、準ちゃん。

よくぞ、僕の顔UPをカットしなかった。

映画は数々の賞を受賞。

あっぱれ、準ちゃん。



エピソード10、準ちゃんの舞台挨拶。



映画「あおげば尊し」封切の日、娘と2人で見に行きました。

舞台では、準ちゃんがいつものように、ぼそぼそとご挨拶。

客席の僕たちに気づいたんでしょう。

舞台挨拶が終わったら、わざわざ僕たちの席まで来てくれて、再びご挨拶。

娘が感激していました。

そう言えば20年以上前、

映画「BUSU」が、早稲田祭で上映、

内緒で、準ちゃんのパネルディスカッションを見にいった時もそうでした。


客席の尾形君、かみさん、僕を見つけ、

その後、照れくさそうに挨拶に来てくれました。

本当に、本当に大好きでした。

はにかんだ笑顔で、髪をかきあげ、ボソボソっと話す準ちゃん。



エピソード最終章。



33歳と32歳で、出会った2人。

長い付き合いの中、

考えてみたら、幸子さん、僕のかみさん、子ども達も含めたお付き合いになっていた。

仕事に、プライベートに、

ここには、書けないエピソードも含め、

準ちゃんとのエピソーソは尽きない。




準ちゃん59歳、僕58歳。別れは突然、訪れてしまった。




老後の楽しみは、準ちゃん映画でファンキー爺さんの役柄をもらうことだったのに…

そして、もっともっとエピソードを重ねたかったのに…

準ちゃんたら…



62歳、いつの間にか、準ちゃんの歳を軽く、越えてしまった。



松枝良明