市川準監督のこと〜



一生懸命に考えた。

初めて市川監督に会った時のことは・・・実は良く覚えていない。
私がアシスタントだった頃で今から25〜6年前のこと。
最初の頃監督は私のことを「〜〜(当時の会社)の若いこ」と呼んでた。

そして名前で呼んで貰えるようになった頃、あるCMの仕事でご指名をいただいた。
市川監督がオーディションで小劇場系の役者を年齢問わずたくさん見たいと言う。
遊民社、第三舞台、ジテキン、カクスコ、山の手、エロチカ、七曜日、キャラメル、鳥獣戯画等・・・、
2日に分けて総勢80名位の大がかりのオーディションをやった。
CMで使ったキャストは3〜4人で、ほとんどの役者はある「映画」で出演している。

・・・・・ここだけの話。



市川監督には得意な魔法の言葉がある。
CMでも映画でも諸事情というものがあるのだが、市川監督の要望が
はるかにそれを上回っていてプロデューサーも私も声をそろえて
「監督、それは無理です!」という場面が多々あった。
そんな時決まって監督が言った台詞が
「市川がそう言ってると言って・・・・。」

・・・誰に?

だけど、ほとんどの場合市川監督の希望通りになった。
・・・・市川監督だけが使える魔法の言葉。



市川監督は本当に有名無名問わず、多くの役者さん達から慕われ愛されていた。
皆市川監督が大好きだった。

彼らが言うには、市川監督は役者の一番良いところを撮ってくれるんだそうだ。
主役でも、短いたった1カットの端役でも演じる者の気持ちを大切にしてくれる・・・。
特に秒数が決まってるCMは、カットごとの演技が短くて気持ちを作れないまま
不完全燃焼で終わってしまうことが多い中
市川監督は1カット長芝居で・・前後アドリブ入れて・・たっぷり間を取って・・
カットがかかるまで続けて・・・と長回しで撮ってくれる。
役者にとってこの充実感、緊張感は役者冥利に尽きるんだと言う。

もちろん言うまでもなく、市川監督のあの愛すべき人柄も
皆が市川監督信者になる最大の魅力のひとつだったのだけれど。



現場に必要な市川監督愛用のものがあった。

撮影朝市川監督が現場に来ると先ず<コーヒー>だった。
砂糖・ミルク入りのホットコーヒー。
次にだいたい「<胃薬>ある?」
そして<タバコ>・・・「これと同じの2つ買ってきて。」
これらが揃うとリハーサルが始まる。

ぼそぼそしゃべる監督には<トラメガ>が欠かせない。
スタジオでは<市川監督専用マイク>があった。
誰が用意したのか金ぴかのマイクに皆で笑った。

撮影が進み佳境にさしかかると<アイス>タイムになる。
甘いモノが大好きだった市川監督。
撮影現場ではアイスで編集中はケーキだったそうだ。

ある時から・・・気分転換は目に入れても痛くない以上に溺愛してた
<ひびきちゃん>との電話。監督が別人:じいじに変身した。
あの頃はひびきちゃんのおかげで撮影が早く終わってスタッフ一同幸せだった。

そして助監督:<スエちゃん>と<カイちゃん>
彼らは公私ともに市川監督のいつも一番近くに居て、
映画にCMにととても忙しい市川監督の支えだった。
撮影現場だけでなくいつでも、どこでも監督の手足となり、頭脳となり、
ストレス発散の為もぐらたたきのもぐらとなり、、、
なくてはならない市川監督の助監督だった。
ウルトラセブンのお助けカプセル怪獣ミクラスとウインダム
みたいな・・・・・。




また一生懸命に考えた。

最期に市川監督に会った時のことも・・・実は良く覚えていない。