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「9月の“市川準・集”のこと」〜神楽坂・その3〜
ある日曜日
ポータブルプレーヤーを買ったので一緒に聞こう、市川さんから声が掛った。
彼の家の近くの土手のベンチで聞かないか、と言う。
弾む心と足取りで、とって置きのレコード持参で出向いた。
飯田橋から市ヶ谷にさしかかった土手のベンチに
おもむろにプレーヤーを広げ、さぁ、これから、という段で、
はたと周りを見回す。
さすがに音を出しづらい。
小さくても、大きくても具合が悪そう。
そうだ、学校へ行こう!
近くのH大学の屋上へ連れて行かれた。
えぇ〜、しぶる私に
学生運動でどうのこうのと、大丈夫だから・・・とか言って、カラっと笑顔を向ける。
「気持ちいいからさ。」
殺風景な屋上にはベンチがあったのか、なかったのか、記憶もないが、
ただ、ガランとしたグレー1色の屋上に、大きな青い空と、いい風を感じた。
居心地の悪さを充分に感じながら、
それでもビートルズの新曲、
わたしの持参のLPも聞き、
白い小さなプレーヤーは きちんと役目を果たしてくれた。
再びその「屋上」に誘われることもなかったが
再びその日のことを語ることもなかった。
市川 幸子