ijoffice2010-08-06




「9月の“市川準・集”のこと」〜神楽坂〜   

         

7月のある日
誘われて飯田橋のN会館に行くことになった。
私にとって飯田橋は市川さんの街だ。
青春の思い出が詰まっている。


飯田橋は神楽坂という言い方の方がピンと来る。
若き市川さんも「飯田橋に住んでいる・・・」とは言わなかった。



神楽坂でね、駅を降りるとお堀があって釣りもできるんだ。
坂を登った家の近くには、韓国の教会があって理科大が在る。
大きなお屋敷もあるけど
神社を抜けて路地に入るとね・・・
とたんに人の気配のする、その路地がね・・・いいんだよ。
おばあちゃんが開け放した窓の向こうからこっちを見ていたりしてさ、
つい会釈しちゃったりするんだ。


毘沙門天の縁日には大勢の人が繰り出しているとか
芸者さんの住いもあって、近くの銭湯に行くのを見かけていたとか
駅のそばの佳作座と文芸坐へは学校に通うようにほとんど日参していた話など
時にタバコの灰を気にしながら、
18歳の青年・"市川純" は呆気にとられている私を前にけろっと言った。


複雑な感情の内、まだ見ぬその「神楽坂」に私は想いを馳せた。




                       市川 幸子