ijoffice2009-04-21

第21回東京国際映画祭 日本映画・ある視点部門 作品賞受賞作品

脚本/監督◎市川準 助監督◎末永智也 制作◎宍戸貴義
衣裳◎宮本まさ江 音楽◎松本龍之介 整音◎橋本泰夫 音響効果◎佐々木敦 
協力◎Tower Film、Mc RAY、カモメファン 
製作◎市川準事務所 配給◎市川準事務所+スローラーナー


-スタッフプロフィール

◎ 助監督 末永智也(すえなが ともや)
市川準監督作品『ノーライフキング('89)』や
『プチダノン』『金鳥』など各種CMに影響を受け、この業界に入る。
1992年 映像広告制作会社キャットの企画演出部に入社。
1995年 広告代理店東急エージャンシーCR局に出向。
1997年 映像広告制作会社キャットへ復帰。社内演出、営業本部プロデューサーを経て1998年退社。
フリーの演出として現在に至る。現在37歳。

*コメント*
市川監督とは、プロダクションに入社後すぐに出会い、16年に渡り本当に沢山のCM現場でお手伝いして来ました。『buy a suit スーツを買う』の話を最初に伺った時も、とあるCMの撮影現場でした。手に入れた「DVD式のHDVカメラ」を鞄から取り出し、ハンディマイクの性能を力説する監督の表情は、新しいおもちゃを手に入れた子供のようで、そんな楽しそうなお話ならば、と参加させて頂きました。

ご存じの通り、東京を描くことへの拘りが強い市川監督は、「近代的な場所」「自然の残る風景」「昔ながらの景色」の三つのシチュエーションを想定。「秋葉原」「隅田川」「浅草」を選定し、「地方から出てきたユキの視点」「浮浪者のヒサシの視点」「東京で生きて行こうと覚悟を決めたトモ子の視点」として、描き出しました。シンメトリーやローアングルなど、技術的な観点はもちろんのこと、これからも変化を続ける東京の「今」を求められました。監督の過去の作品とともに、監督の見てきた「東京の姿」を感じて頂きたいと思います。

◎ 制作 宍戸貴義(ししど たかよし)
1980年 11月1日生まれ。
2005年 淑徳大学大学院修了後、CM制作会社 株式会社TowerFilmに入社。
CMのプロダクションマネージャーを勤める傍ら、2007年から演出を始める。

*コメント*
僕が普段お会いするのはCMの作業が主でしたので、映画監督としての市川監督にお会いするのは、今回が初めてでした。映画を撮るということ、編集するということ、そのすべてにおいて監督は楽しんで作業をされていました。いつもお会いする監督以上に。『buy a suit スーツを買う』の作業をとおして、見せていただいた市川監督の映像に対する姿勢を僕は一生忘れません。

 (左・松本さん、右・市川監督)

◎ 音楽 松本龍之介(まつもと りゅうのすけ)
1973年 生まれ。
1997年 ニューイングランド音楽院作曲科卒業。
2001年 バークリー音楽院フィルムスコアリング科卒業。
学校を卒業後は主に自主制作映画の音楽を作曲。
市川監督のネットムービー、セキスイハイム「しあわせの貯金箱」の作曲担当。『buy a suit スーツを買う』と共に『TOKYOレンダリング詞集』の音楽も手掛けた。

*コメント*
十代の頃から市川監督のファンで監督の事務所へデモCDを持って行ったのがきっかけでお仕事をさせて頂きました。今回久々に監督からお電話があった時は本当に嬉しかったです。その時電話で監督が「手持ち弁当」で映画を作ったというような事を言われました。しばらく経っても作曲がはかどらず困っていた時に監督から連絡があり、曲が出来ず悔しくて飲み過ぎ、二日酔いですみませんと僕が謝ったら「松本君、そんなにノイローゼみたいにならないで。気楽にやって。」と優しく言われました。その後CDをお送りしたら監督からメールを頂きました。そのメールを読んだ時、音楽をずっとやってきて本当に良かったと思いました。市川監督に出会えて本当に良かったです。市川監督ありがとうございます。


いまCDが届き
さっそくきいてみました。
これだけいろいろあれば
大丈夫とおもいます。
それぞれみな良い膨らみかたで
映画に寄り添ってくれて
感動しています。


今日、まにあったので橋本さんと
夜にちょっと画にあわせてみます。
なにか要望が出ましたら
連絡します。


ありがとうございます。 

市川

 (左・橋本さん、中・砂原さん(主演)、右・市川監督)

◎ 整音 橋本泰夫(はしもと やすお)
1944年 宮崎県生まれ。
1965年 東京写真大学(現東京工芸大学)卒業。
1967年 録音グループ「櫂の会」の設立に参加。
1980年 (株)櫂の会を退社後フリーとなり映画・CMの録音を担当。
以降、日本を代表する録音技師として活躍。
主な作品歴として、83年 蔵原惟繕監督「南極物語」、86年 佐藤純彌監督「植村直巳物語」(87年度 日本アカデミー賞最優秀録音賞受賞)、88年 佐藤純彌監督「敦煌」(89年 度日本アカデミー賞最優秀録音賞受賞)、89年 降旗康男監督「あ・うん」(90年度 日本アカデミー賞最優秀録音賞受賞、日本映画技術賞受賞 )、05年 黒土三男監督「蝉しぐれ」(06年度 日本アカデミー賞優秀録音賞受賞)など。市川準監督とは93年の「病院で死ぬということ」(94年度 毎日映画コンクール録音賞受賞)をはじめとして、その後のほとんどの映画作品を担当した。

*コメント*
 2008年3月のある日、市川監督から連絡があった。「是非見せたい物がある」というので、早速監督の家に伺った。一階の監督の書斎に通されると、そこには演出助手の末永智也氏と宍戸貴義氏がパソコンを相手になにやら作業していた。そして見せられたのが未編集の『buy a suit スーツを買う』である。いきなり騒音と共に女性の会話が始まった。会話はほとんど聞き取れないのでストーリーが分からない。出演者は映画好きなCM関係のスタッフだという。撮影は市川監督と末永氏がDVDカメラで行い、セリフは民生機のワイヤレスマイクを購入して、演技者に付けたとのこと。
監督は途中で映像をストップし「どうですか?」と笑いながら一言。
「これをどうするんですか?」と私、
監督「これをどこかで上映したいが、何とかなりますか?」
「ウーン、今日初めて見たので何とも云えません」と逃げ腰な私。

 4月、正式に整音作業の依頼を受け、5月某日、天王洲アイルの編集ルームで改めて頭から最後まで見せて貰った。音は相変わらずだがある程度編集された『buy a suit 〜』、そこには市川監督のテーマである人間、家族、兄妹、友人、社会、そして愛と死が凝縮されていた。まるで映画青年の様な初々しい作品というのが第一印象であった。この作品を東京国際映画祭の「ある視点」というコーナーに出品するとのこと、また、ユーロスペースで上映が決まりそうと聞き、「これはちゃんとしなければ…」と内心複雑な思いが横切った。

 8月、ある程度編集が固まってきた時点で台詞の整音作業を始めた。DVDカメラの原音は探し出すことが困難なため、パソコンに取り込んだ編集の材料の音と差し替えることにした。また音飛びしている数百ヶ所の穴埋め修復作業や電波障害の削除、そして何より大切なのはセリフの明瞭度、映画館で耐えられる音響にしなければならない。

 9月、どうしても聞き取れない大切なセリフをアフレコすることにした。監督は「原音の雰囲気を大切にしたい」とのことで、必要最小限にとどめることにした。その部分は隅田川での兄妹の会話、それも妹のみに限定し、アフレコ作業は私の作業場でやることに決め、出演者の砂原由起子さんに来て貰った。監督は両手一杯に飲み物とおやつを持って現れ、作業が終わると珍しく盛んにスナップ写真を撮り楽しんでいた。それが、監督との最後の仕事となるとは誰が想像できるでしょうか?

 9月18日、『buy a suit 〜』の本編作業を終えたその深夜、急逝。「監督!ダビング(MA)作業を忘れては駄目ですよ!」「次の映画の台本はどうするのですか!」と心の中で絶叫した。本当にあっけない最後。まるで『buy a suit 〜』のラストシーンのようで、これは何を意味するのか…、「監督、教えて下さい」未だ理解できないでいる私だ。
(2009年4月17日)

 (公開記念トークショーの様子。左・宮本さん、右・末永さん)

◎ 衣裳 宮本まさ江(みやもと まさえ)
1985年 第一衣裳入社後、フリーに。独立系映画の衣裳を中心に CM、TVドラマ、舞台など幅広く活躍。2000年には市川準監督作品『ざわざわ下北沢』のプロデュースも。主な映画作品として『夢二』(90)、『寝盗られ宗介』(92)、『GO』(01)、『青い春』(01)、『阿修羅のごとく』(03)、『赤目四十八瀧心中未遂』(03)など。市川作品では『会社物語』(88)、『大阪物語』(99)、『あしたの私のつくり方』(07)をはじめ、CM作品でも「サントリーオールドシリーズ」など 数多く担当。

*こぼれ話*
『buy a suit スーツを買う』では、市川監督の要望で 衣裳合わせの際に ユキ(砂原由起子)と兄のヒサシ(鯖吉)に衣裳を身に着けてもらって、衣裳部屋の屋上へ移動し、実際に外を歩く二人の姿を見ながら繰り返し衣裳に修正が加えられたそうです。兄のヒサシがかけている眼鏡も“壊れた眼鏡”にしたいという監督の希望で、フレームには絆創膏がぐるぐる貼られたりと拘りがみえます。でも監督、ホントは眼鏡を壊してしまいたかったそうです(レンズにヒビ割れを入れたり)。鯖吉さんの私物の眼鏡だったので、鯖吉さんに “ 無理です!! ”と断られたそうです。