久々のリレー日記です。
今回は、「東京兄妹」で脚本をお書きになった、鈴木秀幸さんです。





街を歩いているときや、電車に乗っているとき、ときどき市川さんの映画を思い出す。


ビルとビルの隙間から空が見えたり、背中に日差しを感じたり、夕方の暗がりにぼんやりしてしまったときにも、


市川さんの映画の感触が甦ってくるような気がする。


市川さんの映画を思い出すと、すこし温かい気持ちになる。


『東京兄妹』が銀座の並木座で上映されたとき、市川さんと共同脚本の藤田くんとで出かけたことがあった。


上映の後どこかに寄ったのだが、どこに行ったのか思い出せない。


隣の三州屋に行ったのかな。

麻布十番の小料理屋で、藤田くんともう一人の脚本の猪股さんと三人でごちそうになったこともあった。


路地裏やガード下を歩いていると、市川さんとばったり出会いそうな気がする。


トキワ荘の青春』のときには、都立大で市川さんと共同脚本の森川くんとで打ち合わせをした後、


焼き肉をごちそうになった。


五反田のおでん屋、若ちゃんにも連れて行ってもらった。


無口なおじいさんと元気な娘さんが切り盛りしていた。


小津さんの映画に出てきそうなお店だった。


「都会のどこかで、無名の人が鈍く光っているのが一番いいよな」


と市川さんは言っていた。


なんだか、ずいぶんたくさんごちそうになって、たくさんのことを教えていただいた。


市川さん、ごちそうになったままでごめんなさい。



これからもどこかの街角で、市川さんの映画を思い出すのだと思う。



『東京兄妹』『トキワ荘の青春』共同脚本 鈴木秀幸