「人生を変える作品を作る人」 演出家:スエナガ トモヤ






僕と市川準監督との出逢いは、最悪なものでした(笑)
今からちょうど20年前。ああ、もう20年も前になるんですね。
幾つかの夢に敗れ、将来への目標を失いつつあった、
若輩者の僕は、右も左も分からない、
映像という世界に足を踏み入れました。
そのきっかけとなったのが、当時面白CMをバンバン世に

送り出していた市川監督。
その面白系CMと対象的に「ノーライフキング」のような、
シリアスでメッセージ性の強い映画を手掛ける人物に、

興味を惹かれたことにあります。

入社した制作会社では、度々市川演出のCM作品が作られ、
入社後すぐに出逢いのチャンスが訪れました。

とある流通のCM。演出は市川監督と決まっていました。
企画段階では社内にいた企画部の僕らも頑張ります。
そのかいがあり、一本を市川監督企画。

もう一本が僕の企画と大金星。
プロデューサーに、是非撮影の現場を見学させて欲しいと

頼み込みました。

片手にトラメガ、片手にタバコのいつものスタイルで、

テストが始まります。
暫くすると、市川監督に手招きされます。
「この企画、君が作ったの?」
「はい!」
「いまテスト見てたよね、どうだった?」
「はい!面白かったです!」
素直な青年の眼差しは、一瞬で曇ります。
「お前の企画、つまんないんだよ!」

言うまでもありません。
その企画は、エッセンスのみ残し、市川作品として、

生まれ変わり完成したことは…

ほろ苦い出逢いのお陰で、いつか見返してやろう!
いつか「スエちゃん、イイね」と言わせて見せよう!
そんな強い絆が生まれました。

余談ですが、そんな出逢いから十年以上たったある日、

市川さんと数名で飲む機会があり、その話をすると、
「僕はそんなこと言わないよ〜」とホホホと笑い、
「もし言ったなら、ホントつまらなかったんだろっ」と

大笑いしていました。

その夜は、市川さんと僕の二人で、日本酒一升瓶を空けていました。

最悪な出逢いから、最期まで、不思議な縁で巡り会えた師匠を、
いつまでも追い続けたいと思っています。

いつか「スエちゃん、イイね」って、言われるように…